小論文を書くとき採点する人を読み手として意識すると文章は変わるか|読み手の意識と作文の研究
小論文は大学の採点者が読む文章だと知っていても、その人を意識すると何を変えればよいのか迷う人がいます。読み手の意識は点を直接上げる魔法ではありませんが、読む側の立場で文章を捉えることは、書き直しを進める手掛かりになります。小学5年生87人を対象にした研究では、他人の文章を読んで説得力について話し合った群のほうが、書く練習をした群より、書き直した文章の質が高くなりました。[1]
- 小論文でいう読み手には、実際に答案を評価する人と、設問の中で説明を向ける相手という捉え方があります。
- Mooreらは、小学5年生87人を、ほかの人が書いた説得の手紙を読んで話し合う群、その話し合いを聞いてメモを取る群、説得の手紙を書く練習をする群に無作為に分けました。
- Redd-Boydらは、大学生に読み手を指定して説得の文章を書かせました。
- Oliverは、7・9・11年生と大学1年生について、課題の「話題」「目的」「読み手」の指定を変え、作文の質を比べました。
小論文は大学の採点者が読む文章だと知っていても、その人を意識すると何を変えればよいのか迷う人がいます。読み手の意識は点を直接上げる魔法ではありませんが、読む側の立場で文章を捉えることは、書き直しを進める手掛かりになります。小学5年生87人を対象にした研究では、他人の文章を読んで説得力について話し合った群のほうが、書く練習をした群より、書き直した文章の質が高くなりました。[1]
放課後、書き終えた答案を前にして、採点する先生なら説明を省いても伝わるはずだと考える場面があります。反対に、詳しい人が読むと思うほど、立派に見える表現を探して筆が止まる場合もあります。どちらにも、読み手が何を知っているかと、自分が何を説明する責任を持つかを混ぜて考える難しさがあります。
総合型選抜や学校推薦型選抜の小論文では、設問の要求に沿って考えを文章にすることが出発点です。採点者の好みを推測するより、文章の中に判断の材料がそろっているかという視点が役立ちます。作文の研究を読む際にも、書く意欲、書き直しの質、作文の点のうち、何が変わった結果なのかに注目すると、練習に取り入れる意味が見えてきます。
小論文の読み手は設問と評価の観点から捉える
小論文でいう読み手には、実際に答案を評価する人と、設問の中で説明を向ける相手という捉え方があります。たとえば「専門外の人にわかるように説明する」という指示がある場合、答案を採点する人自身が専門家でも、文章は専門外の人に伝わる形を求められています。「大学の先生が読む」という理解だけでは、この条件が抜け落ちます。誰が採点するかという情報より、どんな説明を文章に求めているかが、書く内容に直接かかわります。
手掛かりとなるのは、募集要項や過去の出題にある「出題の意図」「評価の観点」「講評」です。出題の意図は、その問題を通して何を考えてほしいかを示す言葉として、評価の観点は、答案のどの面に目を向けるかを示す言葉として読めます。講評には、実際の答案について触れた説明がある場合もありますが、それぞれの欄の有無や詳しさは公表の内容によります。想定する読み手への言及があるかという視点で読むと、表現の好みを想像するより、問題に即した説明の範囲を捉えやすくなります。
同じ「説明する」という要求でも、用語の意味を説明するのか、資料に示された変化の理由を説明するのかで、必要な内容が変わります。前者なら言葉の意味が中心になり、後者なら変化と原因をつなぐ考えが中心になります。採点者に向けて丁寧な言い方をするだけでは、この内容の差は埋まりません。読み手を考える際のよりどころになるのは、次のように、指示の言葉と文章に必要な内容との対応です。
| 指示や公表の説明にある言葉の例 | 文章に必要になる内容 | 読む際の焦点 |
|---|---|---|
| 専門外の人にわかるように | 議論に必要な用語や前提の説明 | 予備知識をどこまで想定するか |
| 資料を踏まえて説明する | 資料の内容と説明とのつながり | 何を根拠に判断しているか |
| 自分の考えを理由とともに述べる | 主張と、その主張を採る理由 | 読み手が理由をたどれるか |
| 課題文の内容を説明する | 筆者の議論に即した説明 | 自分の意見が混ざっていないか |
読む側を体験した群では書き直しが変わった
Mooreらは、小学5年生87人を、ほかの人が書いた説得の手紙を読んで話し合う群、その話し合いを聞いてメモを取る群、説得の手紙を書く練習をする群に無作為に分けました。無作為に分けるとは、本人の希望や得意不得意で参加する群を決めず、偶然で割り当てることです。読んで話し合う群では、なぜその手紙に説得力があるのかを扱い、その後、自分の最初の下書きを書き直しました。読む対象は他人の文章で、書き直す対象は自分の文章という組み合わせでした。[1]
読んで話し合った群の書き直しは、書く練習の群より質が高く、読み手を意識した跡も多く含まれていました。一方、話し合いを聞いてメモを取った群は、ほかのどちらの群とも差がありませんでした。結果が示したのは、単に文章に触れる時間があれば同じ変化が出るということではなく、読む側として説得力を考えた活動と書き直しとのつながりです。聞く活動をした群が両方と差を示さなかった点も、活動の名前だけで効果を並べる際の注意になります。[1]
この実験での読み手は、書き手の頭の中に想像された相手にとどまらず、実際に手紙を読んで、その説明に納得するかを考える役割でした。自分で書いているときには筋が通っているように見えても、他人の文章なら、理由が足りない部分や説明がつながらない部分が問題になります。研究を練習へ生かす着眼点は、採点者らしい人格を思い描くことより、文章から納得の材料を受け取る経験にあります。Mooreらが比較した中心も、読み手を思い浮かべたかどうかという気持ちだけでなく、読む・聞く・書くという活動でした。[1]
点への効果が限られた研究もある
Redd-Boydらは、大学生に読み手を指定して説得の文章を書かせました。読み手を指定すると、書くことへの関心や努力、読み手に合わせた工夫、説得する力は増しましたが、作文の点への効果は限られていました。「誰かに伝えよう」という意識が生まれたことを、そのまま点の上昇と読み替えると、この結果の大切な部分を落としてしまいます。意欲が増したという結果も文章の点という結果も、それぞれ測られた内容に沿って捉える必要があります。[2]
この研究は、読み手の指定に意味がないという結論にもなっていません。文章を書くために力を注ぐことや、相手に合わせて伝え方を工夫することにも変化があったからです。小論文の練習に置き換えて考えるなら、相手に伝えたい気持ちが強くなった答案でも、設問への答えや理由のつながりが文章に現れているかが課題になります。努力した感覚だけで出来を判断せず、実際に書かれた内容を判断の対象にするという読み方が、結果と整合します。[2]
さらに、Mooreらの研究では、1週間後の別の課題で群の差がありませんでした。目の前の下書きの改善と、新しい課題でも同じように書けることは、結果として分けて示されています。書き直しという活動では既にある文章を材料にしますが、新しい課題では、話題に応じた主張や理由をあらためて組み立てます。研究の時間の流れを追うと、同じ文章を直した時点の成果だけで、その後の書く力全体を評価することの難しさが見えてきます。[1]
読み手だけでなく目的と話題にも目を向ける
Oliverは、7・9・11年生と大学1年生について、課題の「話題」「目的」「読み手」の指定を変え、作文の質を比べました。指定の効き方は学年によって変わり、全体としては、目的と話題の具体的な手掛かりが、よりよい作文につながりました。読み手を決めることだけを中心に置くより、何について、何のために書くのかまで含めて課題を捉える意味のある結果です。たとえば説明を求める課題と、提案への賛否を述べる課題では、話題が同じでも文章の役割が変わります。[3]
「読み手が納得する文章」を目標にするときも、何への納得なのかが必要です。問題の成り立ちを理解してもらいたいのか、提示した対策を選ぶ理由を認めてもらいたいのかによって、説明の順序や必要な根拠は変わります。話題が広いままでは、書き手の関心のあることを次々に並べても、設問の求める議論に届かない場合があります。目的と話題の具体的な手掛かりがよい作文につながったというOliverの結果は、文章の相手だけでなく、文章が担う役割にも注意を向けています。[3]
たとえば、ある制度の長所と短所を説明する課題なら、両方の内容を伝えることが文章の仕事になります。自分がその制度を強く支持していても、長所だけを重ねると、求められた説明が欠けます。逆に賛否を理由とともに述べる課題なら、長所と短所を紹介しただけでは、自分の判断が見えない文章になります。同じ読み手に向けた文章でも、求められる仕事に応じて必要な内容が変わることが、この例からわかります。
全員に同じ読み手の工夫を求めない
Zainuddinらは、マレー語と英語で書く4人について、説得の文章で読み手をどう意識するかを調べました。読み手への工夫の使い方は人によって変わり、課題の受け止め方や、それまでに文章を書いた経験と絡み合っていました。これは、数値で大きな集団の平均を比べるより、少人数の書く過程を詳しく捉える質的な研究です。工夫を使う背景に目を向けており、全員に同じ方法を当てはめる説明とは距離があります。[4]
読み手を思い描こうとすると、書く目的が明確になる人もいれば、相手にどう評価されるかばかり気になる人もいるでしょう。ここで困るのは、採点者が喜びそうな意見を探すことに注意が向き、設問の内容から離れてしまう場合です。また、課題文の要点がまだ捉えられていない段階では、伝え方を変える前に、説明する内容自体が定まっていません。そうした答案に読み手への呼びかけや丁寧な言葉を足しても、議論の材料の不足は残ります。
書く経験にも、感想を中心に書いてきた場合と、理由を示して意見を書く機会が多かった場合があります。同じ「相手に伝える」という言葉を受け取っても、思い浮かべる文章の形がそろうとは限りません。Zainuddinらが捉えた個人差は、読み手への工夫を使う過程が、課題の受け止め方や書く経験と結びついているというものでした。4人の詳しい過程から見えるのは、工夫の有無だけで書き手を評価するより、その工夫がどのように使われたかに目を向ける意味です。[4]
練習に取り入れる行動は書く前後に置く
書く前の行動は、設問文から「誰に・何のために」を抜き出し、練習用の答案の冒頭の余白にメモすることです。相手が指定されていなければ「読み手の指定なし」とし、目的は説明、比較、意見の提示など、実際の要求に沿った言葉にします。これは、採点者の専門や好みを補って想像するための欄ではなく、問題文にある条件を短く保つためのメモです。解答として提出する文章と、考えるための余白の記録とは、役割を混ぜずに扱います。
別の練習として、他人の答案を1本読み、説得された理由と説得されなかった理由を1行ずつ書き出します。「上手だった」という全体の感想より、主張に必要な説明があった、理由から結論へ飛躍していた、というように文章の働きを言葉にする活動です。書き手に点を付けるためではなく、自分が読む側に立ったとき、どこで納得し、どこで立ち止まったかを捉えることが目的になります。Mooreらの実験には話し合いも含まれており、この個人の練習は、読む役割を取り入れた応用案として位置づけられます。[1]
書いた後の行動は、書き終えた答案を設問の要求を知らない人として読み直し、意味の通らない箇所に印を付けることです。これは採点者が設問を知らないという想定ではなく、書き手の頭の中にある説明をいったん外して、文面だけでつながるかを見るための手順です。「このこと」が何を指すのか、結論までの理由が文の中にあるのかという点が、印を付ける対象になります。研究では、読む側で説得力を考えた群の書き直しに改善が見られました。[1]その成果が新しい課題や日本の入試の点にどこまで続くかは、まだわかっていません。
よくある質問
採点者が大学の先生なら専門用語を多く使ったほうがよいか
専門用語の数を増やすことを目標にする必要はありません。用語には議論の対象を正確に指す働きがありますが、その意味と使い方が文章に合っていることが前提です。たとえば課題文がある言葉を特定の意味で使っているとき、自分の普段の意味に置き換えると、議論の対象がずれる場合があります。採点者の詳しさを理由に説明を省くより、その言葉が主張の中で果たす役割が伝わる表現が適しています。
課題文の筆者に反論する形で書いてよいか
自分の意見を求める設問なら、筆者と異なる立場も議論の形になりえます。ただし、筆者の主張を説明する設問の部分では、自分の反論を筆者の説明に混ぜると、誰の考えかが曖昧になります。筆者が述べていない極端な意見を反論の相手にすると、課題文に即した議論からも離れます。賛成か反対かという立場そのものより、設問の要求の中で、筆者の主張と自分の判断がそれぞれどの役割を持つかが問題になります。
出題の意図や講評が公表されていない場合は何が手掛かりになるか
問題文そのものにある、論じる対象、答える内容、資料の扱い方の指定が手掛かりになります。「説明せよ」と「あなたの考えを述べよ」では、解答に求められる仕事が変わります。講評がないことを、採点者の考えに合わせる必要があるという意味に受け取る理由はありません。解答例が載っている場合も、その結論だけを出題者の好みと読むより、問題文のどの要求に対応した説明なのかという関係が、内容を理解する軸になります。
この記事の限界
測定されたのは、作文の点、書き直しの質、読み手への工夫などであり、ここで引いた小学生・大学生・複数の言語で書く人の研究には、日本の年内入試の小論文を直接扱ったものは含まれていません。1989年の研究も含まれ、4人の書く過程を捉えた研究や、新しい課題では差が見られなかった研究を根拠に、高校生全体への持続的な効果を断定することには限りがあります。
募集要項や出題に関する説明は年度ごとに変わるため、個別の出願では、その年度の最新の要項と大学の発表が優先します。本稿は個別の出願判断を代行するものではなく、読み手を意識する練習の意味を検討する範囲にとどまります。
参考文献
- Moore ほか. The Effects of Being a Reader and of Observing Readers on Fifth-Grade Students' Argumentative Writing and Revising. Reading and Writing. 2012;25(6):1449-1478.
- Redd-Boyd ほか. The Effects of Audience Specification on Undergraduates' Attitudes, Strategies, and Writing. Research in the Teaching of English. 1989;23(1):77-108.
- Oliver. Effects of Assignment on Writing Quality at Four Grade Levels. English Quarterly. 1989.
- Zainuddin ほか. Audience Awareness in L1 and L2 Composing of Bilingual Writers. TESL-EJ. 2003.
要項の一文を、あなたの出願書類の一文に変えるところまで付き合う
- 向く人: 要項を読んでも、自分の評定と英検で出せる方式を絞り切れない高校生
- 向く人: 志望理由書と小論文を、出願の数か月前から一対一で書き直していきたい人
- 向かない人: 志望理由書や活動報告書を代わりに書いてほしい人
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よくある質問
採点者が大学の先生なら専門用語を多く使ったほうがよいか
専門用語の数を増やすことを目標にする必要はありません。用語には議論の対象を正確に指す働きがありますが、その意味と使い方が文章に合っていることが前提です。たとえば課題文がある言葉を特定の意味で使っているとき、自分の普段の意味に置き換えると、議論の対象がずれる場合があります。採点者の詳しさを理由に説明を省くより、その言葉が主張の中で果たす役割が伝わる表現が適しています。
課題文の筆者に反論する形で書いてよいか
自分の意見を求める設問なら、筆者と異なる立場も議論の形になりえます。ただし、筆者の主張を説明する設問の部分では、自分の反論を筆者の説明に混ぜると、誰の考えかが曖昧になります。筆者が述べていない極端な意見を反論の相手にすると、課題文に即した議論からも離れます。賛成か反対かという立場そのものより、設問の要求の中で、筆者の主張と自分の判断がそれぞれどの役割を持つかが問題になります。
出題の意図や講評が公表されていない場合は何が手掛かりになるか
問題文そのものにある、論じる対象、答える内容、資料の扱い方の指定が手掛かりになります。「説明せよ」と「あなたの考えを述べよ」では、解答に求められる仕事が変わります。講評がないことを、採点者の考えに合わせる必要があるという意味に受け取る理由はありません。解答例が載っている場合も、その結論だけを出題者の好みと読むより、問題文のどの要求に対応した説明なのかという関係が、内容を理解する軸になります。