本を多く読む生徒は小論文を書けるようになるか|読書の量と書く力の研究
小論文で手が止まると、本を読む量を増やせば文章も書けるようになるはずだと考えたくなります。読むことは書く力を伸ばす助けになりますが、読書量だけに頼らず、読んだ内容を書く活動につなぐことが大切です。文章に触れる量を増やす働きかけを集めた研究では、書く力全体への効果量は0.35でした。[1] 効果量とは、取り組みによる差の大きさを、研究どうしで比べられる形にした値です。
- 募集要項の試験科目に「小論文」とあるだけでは、読む文章の長さや求められる作業までは見えません。
- Grahamらは、幼児から高校3年生までを対象とした研究をまとめ、読むことへの働きかけが書く力に及ぼす効果を調べました。
- Grahamらの別のメタ分析は、読む指導と書く指導を釣り合わせた授業を対象にしています。
- Kentらは、手書きの速さ、つづり、読む力、話す言葉の力と、文章の質や書く量との関係をまとめました。
小論文で手が止まると、本を読む量を増やせば文章も書けるようになるはずだと考えたくなります。読むことは書く力を伸ばす助けになりますが、読書量だけに頼らず、読んだ内容を書く活動につなぐことが大切です。文章に触れる量を増やす働きかけを集めた研究では、書く力全体への効果量は0.35でした。[1] 効果量とは、取り組みによる差の大きさを、研究どうしで比べられる形にした値です。
この数字の背景には、本を何冊読んだかを数えるだけでなく、文章を読ませたり、人が読むのを見せたりする働きかけがあります。書店の棚を前に、小論文のために厚い本をたくさんそろえようとする場面では、量を決める前に、その本と答案とのつながりを考える余地があります。読み終えた満足感に加えて、筆者の考えを説明する言葉や、自分が述べたい理由が残るかが、準備を組み立てる焦点になります。
総合型選抜や学校推薦型選抜に向けた読書では、出題の形も関係します。課題文の内容を踏まえて論じる試験と、示されたテーマについて論じる試験では、答案を書くまでの作業が変わります。研究の数字と過去の出題をそれぞれの役割で読むと、読書に期待することと、書く練習で扱うことが具体的になります。
小論文の読書を考える前に、出題の形を知る
募集要項の試験科目に「小論文」とあるだけでは、読む文章の長さや求められる作業までは見えません。過去の出題には、まとまった課題文に設問が続くものも、短いテーマの提示から自分の考えを書くものもあります。課題文型では、筆者の意見や説明をつかみ、その理解をもとに設問に答える過程が入ります。テーマ型では、提示された論点に対して、自分の主張と理由を組み立てる比重が大きくなります。
課題文の分野は、本の題名を選ぶためだけの情報ではありません。たとえば教育についての文章でも、ある制度を説明する文章なのか、その制度を批判する文章なのかで、読むときの焦点が変わります。分量も、長ければ難しいという単純な目盛りではなく、試験の中で理解に必要な作業を考える材料です。同じ長さでも、対立する意見がいくつ登場するか、筆者がどの立場にいるかによって、内容のつかみやすさは変わります。
要項と過去の問題は、次のように受け持つ情報が違います。特に設問の「説明する」「論じる」という動詞は、読んだ内容を再現するのか、自分の考えを加えるのかを示します。本の知識が豊富でも、求められた作業から離れた答案になれば、その知識を設問に結びつけられていない状態です。
| 読む場所 | 主に読み取る内容 | 読書とのつながり |
|---|---|---|
| 募集要項の試験科目・実施方法 | 受ける方式で小論文が課されるか、どのように実施されるか | 準備する試験の範囲が定まる |
| 過去の出題の課題文 | 分野、分量、説明や議論の進み方 | 取り組む文章の姿が具体的になる |
| 過去の出題の設問 | 筆者の説明が必要か、自分の意見が必要か | 読む作業から書く作業へのつながりが見える |
| テーマ型の問い | 論じる対象と、答えに求められる範囲 | 本の内容をそのまま再現するだけでは足りない点が見える |
読む指導と文章に触れる量には、書く力への効果があった
Grahamらは、幼児から高校3年生までを対象とした研究をまとめ、読むことへの働きかけが書く力に及ぼす効果を調べました。こうして複数の研究をまとめて計算し直す方法を、メタ分析と呼びます。読み方を教えた研究は54件、対象は5,018人で、書く力全体の効果量は0.57でした。[1] 読む授業の成果を、読む力だけでなく、書いた文章の側からも評価している点がこの研究の特徴です。
同じメタ分析では、文章を読ませる、人が読むのを見せるなど、文章に触れる量を増やした研究も扱っています。こちらは36件、3,060人で、書く力全体では0.35、文章の質では0.44の効果量が示されました。[1] 「読む」という活動が、書く力にまでつながる可能性を示す結果です。ただし、この値を小論文の得点の伸びや入試での見込みに換算することはできません。
数値を読む際には、「書く力全体」と「文章の質」が何を指すかも大切です。前者は書くことの成績を全体として捉えた指標で、後者は出来上がった文章の良さに焦点を当てています。同じ研究の中でも、何を測るかによって得られた値は変わるため、数字だけを並べて読書法の順位を決める読み方は適切ではありません。読み方の指導を含む取り組みと、文章に触れる機会を増やす取り組みの両方で、書く力への効果が報告されたという範囲で受け止めることができます。[1]
読む時間と書く時間を組み合わせた授業にも効果があった
Grahamらの別のメタ分析は、読む指導と書く指導を釣り合わせた授業を対象にしています。対象は幼児から高校までで、読む指導にも書く指導にも、授業全体の60%を超える時間を割かない取り組みが扱われました。書く力について、研究ごとの平均の効果量は0.37、文章の質では0.47でした。[2] 読むことと書くことを一緒に学ぶ授業でも、文章を書く力の伸びが示されています。
この60%という条件は、研究に含める授業の範囲を定めたものです。高校生が家庭で読む時間と書く時間を、その割合に合わせるための処方ではありません。授業の中には指導があり、生徒は読む活動だけを自由に選んでいたわけではないため、ここで注目したいのは、書く活動にも時間が確保されていたことです。[2] 本を開く時間が増えた一方で答案を作る機会がなくなっているなら、研究で効果があった取り組みとは内容が離れます。
読む活動と書く活動の接点は、文章の中身を受け取る立場から、その中身を他人に説明する立場へ移るところにあります。読んでいる間は納得していた主張も、自分の言葉にすると、理由の部分が抜けたままになることがあります。逆に、筆者に反対だと感じていても、何に反対なのかを文にすると、主張そのものではなく例の選び方が気になっていたと気づく場合があります。このような作業の見通しが、読む・書く活動を組み合わせて準備する際の手掛かりになります。
読む力が高い人の文章がよいことから、読書の効果は決まらない
Kentらは、手書きの速さ、つづり、読む力、話す言葉の力と、文章の質や書く量との関係をまとめました。調べたのは相関、つまり二つの数の動きがどれだけそろうかです。それぞれの要素には、文章の質と弱いから中程度の正の相関があり、力が高い人ほど文章の質も高い傾向が示されました。[3] ここでの「読む力」は、読み終えた本の冊数そのものを指す言葉ではありません。
相関の研究が扱うのは、力や成績の組み合わせに見られる傾向です。そのため、読む力と文章の質が結びついていても、読書の時間を増やした結果として文章がよくなったという順序までは示しません。[3] この点を飛ばすと、「よく書ける人は読める」から「本さえ増やせば書ける」へと、説明が入れ替わってしまいます。小論文が苦手な生徒に読書不足だけを理由として挙げると、何を書くところで困っているのかが見えにくくなります。
たとえば、文章の内容は説明できるのに、自分の主張の理由が続かない場合があります。筆者の意見に賛成することと、その賛成を他人に伝わる形で述べることの間には、理由を言葉にする作業があります。また、頭の中では考えがまとまっていても、文として書き進める段階で止まる場合もあります。読む力以外の要素も文章の質と結びついていたという結果は、書けない状態を一つの原因に決めつけずに捉える手掛かりです。[3]
自分から楽しむ読書と、試験までの準備の位置づけ
学校の外で自分から本を読むことに目を向けたBirnbaumらのレビューは、小学1〜4年生の読む・書く活動を扱っています。取り出された135の知見のうち、学校の外で書くことに関するものは6つでした。[4] 自分からの読書を原因として扱った知見は少なく、読書と書くことのつながりを確かめる研究が足りないと指摘されています。特に必要とされたのは、同じ人を時間を追って調べる縦断研究と、働きかけの効果を比べる実験です。[4]
この結果は、読書を続ける楽しさを否定する材料ではなく、書く力への効果を語る証拠の範囲を示すものです。好きな物語に浸る時間には、その本を読みたいという本人の目的があります。一方、小論文の準備には、試験で示された問いに文章で答えるという目的があります。両方を持っていてよいものの、楽しみの読書の冊数だけを、答案の準備がどこまで進んだかの目盛りにすると、書く作業の状態が見えなくなります。
出願が近づいてから、読書習慣の少なさを埋めようと大量の本を用意する考え方にも、同じ問題があります。読める量が増えたかという目標と、設問に応じた文章を最後まで書けるかという目標では、完成したと判断する対象が変わります。課題文を理解する段階ですでに苦しい人には、難しい長編を増やす計画そのものが重くなる場合もあります。読書の得意不得意を人格の評価にせず、いま必要な作業に対して、取り組む文章の量が大きすぎないかという観点で考えることが大切です。
読んだ内容を答案の材料にする三つの行動
最初の行動は、読んだ本や記事から、筆者の主張を1文、その理由を1文で書き出すことです。「何についての文章か」という話題だけでなく、「その話題について筆者は何と言っているか」を文にします。たとえば制度の紹介が続く章でも、制度の特徴を説明している部分と、筆者が望ましいと考える方向とは役割が変わります。主張と理由をそれぞれ文にすると、印象に残った言葉だけを抜き出す形から、議論のつながりを表す形へ移れます。
次の行動は、書き出した主張に自分は賛成か反対かと、その理由を3行で書くことです。筆者の理由に納得したのか、自分が重視する条件と合っていたのかによって、賛成する理由の中身も変わります。反対の場合も、「納得できない」という感想にとどまるか、主張が成り立たない条件まで言葉になるかで、自分の考えの具体さが見えます。この短い文章は本全体を評価する書評ではなく、一つの主張に対して理由を伴う立場を作るためのものです。
最後の行動は、過去の出題の課題文と同じ分野の新書を1冊選び、章ごとにこの二つの作業を続けることです。分野と分量が見える過去の課題文は選ぶ手掛かりになり、テーマ型なら、過去に示されたテーマが扱う分野を対応させられます。ここまでの研究では、読むことへの働きかけや、読む・書く指導を組み合わせた授業で書く力の伸びが示されました。[1][2] 自分から読む本の量を増やすだけで、日本語の小論文がどこまで伸びるかは、まだわかっていません。
よくある質問
小説を読むことは小論文に役立つか
好きな小説を読む時間を、小論文のためにすべて説明的な本へ置き換える必要はありません。小説の中の人物の考えに触れることと、作者自身が主張していることとは同一ではなく、登場人物の発言をそのまま作者の意見として扱うと読み方がずれます。小論文との接点を考える際も、物語には語り手や登場人物がいるという文章の性質を踏まえることが大切です。好きな本を読む目的と、試験の課題に取り組む目的は、生活の中で両立します。
要約の練習と読書はどちらを先にすべきか
長い本を読み終えるまで、要約の練習を始められないわけではありません。要約は、もとの文章の中心を保ちながら短く表す作業なので、取り組む範囲が短い文章でも成り立ちます。学校の課題で要約が求められている場合は、その課題に示された範囲と長さが基準になります。要約と、自分の賛否や感想を述べる文章とでは入れる内容の役割が変わるため、課題の名前だけでなく設問が求める作業によって順序が決まります。
読むのが遅いと試験の課題文を読み切れないか
普段の読書で読む速度だけから、試験中に読み切れるかは決まりません。物語を細部まで味わう読み方と、設問に答えるために説明のつながりをつかむ読み方では、注意を向ける場所が変わります。試験では課題文の分量に加え、設問の数や答案を書くための作業も同じ時間の中に入ります。読み終えることだけを成功の目安にするよりも、内容を理解して答えを作るところまでが試験の仕事だと捉えるほうが、必要な準備の範囲が明確になります。
この記事の限界
測定されたのは、読む指導などの後の書く力や、読む力と文章の質との関係であり、日本の年内入試における読書量と小論文の得点を直接結びつけた結果ではありません。幼児から高校生までを含む研究や小学生の研究を扱い、読む働きかけのメタ分析は英語で書かれた研究を集めたもので、学齢、授業の条件、研究の時期や国の構成を日本の受験生にそろえた検証ではありません。
出題の形式や実施方法は年度ごとに変わるため、出願する年度の募集要項と大学の発表が、準備の前提となります。研究の読み方と練習の考え方は個別の出願判断に代わるものではなく、本人の答案と志望する方式の条件に即して使う材料と位置づけます。
参考文献
- Graham ほか. Reading for Writing: A Meta-Analysis of the Impact of Reading Interventions on Writing. Review of Educational Research. 2018;88(2):243-284.
- Graham ほか. Effectiveness of Literacy Programs Balancing Reading and Writing Instruction: A Meta-Analysis. Reading Research Quarterly. 2018;53(3):279-304.
- Kent ほか. The Relationship between Component Skills and Writing Quality and Production across Developmental Levels: A Meta-Analysis of the Last 25 Years. Review of Educational Research. 2016;86(2):570-601.
- Birnbaum ほか. A Review on Antecedents and Consequences of Leisure Reading and Writing in Children. SAGE Open. 2022;12(3):21582440221113823.
要項の一文を、あなたの出願書類の一文に変えるところまで付き合う
- 向く人: 要項を読んでも、自分の評定と英検で出せる方式を絞り切れない高校生
- 向く人: 志望理由書と小論文を、出願の数か月前から一対一で書き直していきたい人
- 向かない人: 志望理由書や活動報告書を代わりに書いてほしい人
- 向かない人: 要項を自分で読まずに、受かるかどうかの見込みだけを知りたい人
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よくある質問
小説を読むことは小論文に役立つか
好きな小説を読む時間を、小論文のためにすべて説明的な本へ置き換える必要はありません。小説の中の人物の考えに触れることと、作者自身が主張していることとは同一ではなく、登場人物の発言をそのまま作者の意見として扱うと読み方がずれます。小論文との接点を考える際も、物語には語り手や登場人物がいるという文章の性質を踏まえることが大切です。好きな本を読む目的と、試験の課題に取り組む目的は、生活の中で両立します。
要約の練習と読書はどちらを先にすべきか
長い本を読み終えるまで、要約の練習を始められないわけではありません。要約は、もとの文章の中心を保ちながら短く表す作業なので、取り組む範囲が短い文章でも成り立ちます。学校の課題で要約が求められている場合は、その課題に示された範囲と長さが基準になります。要約と、自分の賛否や感想を述べる文章とでは入れる内容の役割が変わるため、課題の名前だけでなく設問が求める作業によって順序が決まります。
読むのが遅いと試験の課題文を読み切れないか
普段の読書で読む速度だけから、試験中に読み切れるかは決まりません。物語を細部まで味わう読み方と、設問に答えるために説明のつながりをつかむ読み方では、注意を向ける場所が変わります。試験では課題文の分量に加え、設問の数や答案を書くための作業も同じ時間の中に入ります。読み終えることだけを成功の目安にするよりも、内容を理解して答えを作るところまでが試験の仕事だと捉えるほうが、必要な準備の範囲が明確になります。